ヨモツヘグイ – 最終章 – Neosアーカイブ記事 男は気を失っていた。暗黒の中で目を開く。背中に感触はない。石のような硬さも、絹布団のような柔らかさもない。永遠に虚空(こくう)を落ち続けるような感覚は、甚(はなは)だ恐ろしい。同時に男の理解の及ばなさで「夢だ……」と零し、思案(しあん)から...
ヨモツヘグイ – 第二章 Neosアーカイブ記事 男は囲炉裏の前で呆然と座ったまま、戸口から歩いて来る女を注視していた。その歩幅はひどく小さく、牛歩の歩みと形容しても過言ではない。 清の国には、纏足(てんそく)と云う文化があるらしい。幼児期より、足の指を折るように布を巻くと、成年に達すると...
ヨモツヘグイ – 第一章 Neosアーカイブ記事 若い男は雪山を彷徨う。生気もなく、あてもなく。 冷たく鋭利な吹雪が絶え間なく吹き付け、顔面や手の甲を責め苛む。糒(ほしいい)もなく、合羽もなく、唯一持ち合わせた命は風前の灯火。 半死半生の男には、色の識別ができない。吹雪の音さえ聞こえな...